「いや、ワトスン、きみの目にもすっかり見えているんだ。だがきみは目でみたものから推測しない。臆病すぎて、推測をくだせないんだ」

〈青い紅玉/創元推理文庫/阿部知二訳〉より

落とし物の帽子を差し出し、ワトスンに持ち主の人となりを推理してみてくれないかと提案するホームズ。
即座に、「何もわからない」と答えるワトスンに、切り返した
ホームズのセリフ。

原文は…

Watson,you can see everything, you fail, however, to reason from what you see. You are too timid in drawing your inferences.

 fail to 〜-〜できない 〜しそこねる 
 timid-臆病な 気が小さい
 inference-推測 推論 推理


ものごとを観察しそこねたワトスンに対し、ホームズはよく「不注意」だと言っていますが、今回は一歩進んで「推測しない」ことが「臆病」だと言われてます。

これってホームズの推理法に対する信念をも表しているんでしょうね。
何かを推測する時、蓋然性が高いと思われることを口にしても常に100パーセント真実だとは限らない。(事実ミステイクもありますし) どこかにかならず間違いを犯すリスクを抱えている。

しかーし、そのリスクを押してでも「推測する」という姿勢が「臆病さ」を越えているということでしょうか。

ワトスンは臆するあまり推測をはなから諦めていると

この後、「帽子の持ち主が奥方に愛想をつかされている」ことまで大胆に推理するホームズですが、その押しの強さに、確かに臆病とはほど遠いものを実感するワケです。

しかし、ワトスンにしてみれば、「推測自体に失敗する」ことより、「その間違いを一(いち)から十(じゅう)までホームズに指摘され、過度な非難にあう」ことを最も恐れているのではないでしょうか。きっと懲りてるんだと…容赦ないから





〈たまには大胆に推理するワトスンの図〉
そして時には当たる

                 いや、前に職場にこの帽子があったんで…